呼吸とは何か——頑張らなくても、続いているもの

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眠っている間も、何かに夢中になっている間も、人は呼吸をしています。

生まれてからずっとしているのに、呼吸そのものを習った記憶はあまりありません。できない人がいないから、ふだんは練習しようとも思わないのかもしれません。

頑張らなくてもできるのが、呼吸。

それなのに、歌うとき、人前に立つとき、不安で胸がいっぱいのときには、急に自分の息が気になり始めます。呼吸とは、身体にとって何なのでしょう。

目次

身体が、自分で続けている

息を吸うと、胸の下にある横隔膜(おうかくまく)という筋肉が下がり、胸の中に空間ができて、空気が肺へ入ります。肺の奥では、吸い込んだ空気から酸素が血液へ渡り、身体で生まれた二酸化炭素が血液から肺へ戻ります。息を吐くことも、吸うことと同じくらい大切な働きです。(米国国立心肺血液研究所)

呼吸は、ふだんは意識しなくても続きます。一方で、歌うために息を長く吐いたり、話し始める前に間を取ったり、しばらく息を止めたりもできます。自動で働きながら、意識して変えることもできる。そこが呼吸の、少し不思議なところです。(米国国立心肺血液研究所)

OFFICIAL REFERENCEBreathing: Benefits and Mechanics(NHLBI)息を吸うと横隔膜が動いて胸の中に空間ができること、酸素と二酸化炭素が入れ替わるしくみを説明した、アメリカの公的機関のページです(英語)。NHLBI, National Institutes of Health

息は、表現にもなる

淡い水色の水面に広がる波紋
RIPPLE 01

『鬼滅の刃』には、「水の呼吸」「炎の呼吸」のように、「呼吸」の名を持つ技が登場します。作品の中の呼吸と、現実の身体の働きは同じではありません。それでも、力の出し方や動きの整え方を「呼吸」という言葉で表したくなるのは、少しわかる気がします。息は、身体の動きと切り離せないからです。(『鬼滅の刃』公式 ドリル紹介ページ)

息を止める、息を合わせる、息を抜く。日常の言葉にも、息はしみ込んでいます。

音楽にも、息があります。歌う人はフレーズに合わせて息を使い、指揮者が示すタイミングを受け取って、たくさんの人がひとつの音楽に入っていきます。指揮者1人と歌い手11人の合唱団を調べた小さな研究では、歌っているあいだ、呼吸のリズムが人の間でそろいやすくなり、指揮者の呼吸や心拍の変化が歌い手より先に現れる傾向が見られました。息はひとりの身体の中にあるのに、誰かと合わせるものにもなるのです。(合唱と呼吸の研究)

REFERENCECardiac and Respiratory Synchronization in Choir Singing指揮者1人と歌い手11人の合唱団で、歌っているあいだ呼吸や心拍がそろいやすくなることを調べた小さな研究です(英語)。PubMed Central

息で、身体は温まるのか

伝統的な呼吸の実践には、「身体を温める」と語られるものがあります。

また、ヨガの片鼻呼吸(スーリヤベーダ)の研究では、測った温度は上がったものの、静かに座っているだけのときも同じくらい上がりました。この呼吸法だけの効果とは、確認できませんでした。(ヨガの呼吸法と体温の研究)

温かく感じること、手足や皮膚の温度が変わること、身体の中心の体温が変わること。この3つは、それぞれ別のことです。伝統が呼吸をどう捉えてきたかを面白がりながら、身体で確かめられたこととは分けておきたいと思います。

REFERENCEヨガの片鼻呼吸(スーリヤベーダ)と体温の研究呼吸法を行ったときも、静かに座っていたときも、脇の下の温度が同じくらい上がったと報告している研究です(英語)。PubMed Central

深く吸えば、落ち着くのだろうか

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RIPPLE 02

緊張したとき、「深呼吸して」と言われることがあります。ゆっくり、無理のない呼吸が助けになる人もいます。

けれど、落ち着こうとして何度も大きく息を吸うと、かえってめまいや息苦しさを感じることがあります。過換気(いわゆる過呼吸)は、そのとき身体が必要とする以上に呼吸をしてしまう状態です。速い呼吸だけでなく、深く吸いすぎることでも起こりえます。(過換気とパニックに関する論文)

息苦しい。もっと吸わなくては、と思う。身体の変化が怖くなり、さらに息が乱れる。呼吸と気持ちは、思っている以上に近いところにあるのかもしれません。

ただ、過換気とパニック発作は同じものではありません。 パニック発作のすべてに過換気が関わっているわけでもありません。(過換気とパニックに関する論文)

呼吸に意識を向けるのが心地よい日もあれば、かえって苦しくなる日もあります。「正しく呼吸しよう」と頑張ることが、いつでも正解とは限らないのかもしれません。

REFERENCE過換気とパニック発作に関する論文過換気はパニック発作の原因なのか結果なのか、考え方が分かれていること、深く吸う呼吸でも起こりうることをまとめた論文です(英語)。PubMed Central

「呼吸を戻す」って、どこへ戻すのだろう

「呼吸を整える」「呼吸を戻す」。よく聞く言葉ですが、少し不思議です。呼吸は、いつも自分でしているはずなのに、どこへ戻すのでしょう。

走ったあとは、息が荒くなります。身体がたくさんの酸素を必要とするからです。止まってしばらくすると、息は自然に落ち着いていきます。決まった「正しい呼吸」があるわけではなく、そのときの身体に合うペースへ、身体が自分で合わせていくのです。

戻す先は、「心地よいところ」なのかもしれません。

速さや深さの正解ではなく、「いま、楽だな」と感じられるところ。そこへ近づけるのは、息を頑張って整えたときより、安心できる場所にいるときのほうが多いのではないでしょうか。あなたの息は、どんなときに心地よくなりますか。

息を、仕事にしない

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呼吸は、命を支える身体の働きであり、声や音楽をつくる手段でもあります。ときには、気持ちの揺れが現れる場所にもなります。

だから呼吸を知るのは面白い。でも、知ったからといって、一日中息を整えなくてもいいのだと思います。

本を読んでいるときも、誰かと話しているときも、眠っているときも。意識から離れたところで、身体は息を続けています。

頑張らなくてもできることが、自分の中にひとつある。

まずは、そのことを忘れずにいたい。あなたの息は、いまどんなふうに続いているでしょう。

※強い息苦しさや胸の痛みを、自己判断で「過呼吸」や「パニック」と決めつけないでください。初めて起きた症状や、いつもと違う症状は、医療機関に相談してください。

お時間あれば、もう少し。

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