美術館へ行く、という処方箋

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診察室から、美術館へ。モントリオールで始まった取り組みを手がかりに、好きな場所へ出かけるための支えを考える。

モントリオール美術館の階段(2016年撮影)
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病院で手渡された紙に、「美術館へ」と書かれていたら。治療の予定に、絵や彫刻を見る時間が加わる。カナダ・モントリオールで始まった「美術館の処方箋」は、そんな入口をつくる試みだった。

モントリオール美術館の階段(2016年撮影)
モントリオール美術館の階段(2016年撮影)
写真:Daderot / Wikimedia Commons(CC0 1.0、サイズ調整)
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処方箋が、入場券になる

モントリオール美術館は2018年11月、カナダのフランス語圏の医師団体と、美術館への訪問を処方する試行を始めた。参加する医師が患者に処方箋を渡し、それを持って美術館を無料で訪ねる。当初は、大人2人と17歳以下の子ども2人までが入場できる仕組みだった。

モントリオール美術館の入口(2017年撮影)
モントリオール美術館の入口(2017年撮影)
写真:Thomas Ledl / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、サイズ調整)

患者が家族やケアを担う人と一緒に過ごせることも、この取り組みの一部にある。ひとりで作品と向き合っても、誰かと感想を交わしてもよい。入場料の負担を減らすことで、訪ねるきっかけを手渡していた。

美術館の公式発表は、これを通常の治療に加える支援として説明している。「薬の代わりに絵を見る」という話ではない。病気の治療を受けながら、暮らしのなかに別の時間を持てるようにする試みだ。

写真:Daderot / Wikimedia Commons(CC0 1.0、サイズ調整)

いま、日本にもつながる試み

こうした実践は、2018年の試みだけで終わってはいない。モントリオール美術館の現在の公式案内にも、病院や地域団体と協働してつくる活動と、健康・アートセラピーの相談窓口がある。ただし、当初の無料入場パスが現在も同じ条件で発行されているかは、これとは分けて確認する必要がある。

スイスのヌーシャテル市は、2025年に医師が市のミュージアムへの訪問を勧める試行を発表した。同じ「処方」という言葉でも、地域ごとに、医療と文化の場を結ぶ仕組みがつくられている。

日本でも、東京都美術館が企画運営を担い、永寿総合病院認知症疾患医療センターと上野公園内の5つのミュージアムが連携する「上野モデル」が試みられた。2023年度から2025年度にかけての準備や実践をまとめた報告書は、2026年3月に公開されている。認知症の予防やケアにつながる社会的処方の一環として、高齢者が文化の場へ参加する道筋を探る取り組みだ。

好きな場所へ行けるまでを、一緒に考える

英国のNHSが説明する「社会的処方」も、医療とあわせて、地域の活動や支援につなぐ仕組みだ。間に立つ担当者は、その人にとって何が大切かを聞き、実際に参加するまでを支える。

モントリオール美術館の展示室(2016年撮影)
モントリオール美術館の展示室(2016年撮影)
写真:Daderot / Wikimedia Commons(CC0 1.0、サイズ調整)

「外へ出るといいですよ」と言われても、行き先を探し、出かける支度をして、初めての場所に入るまでには、いくつもの段差がある。お金や移動の心配、ひとりで行くことへのためらい。そうした事情を一緒に考える人がいることで、行き先の案内も違ったものになりそうだ。

美術館が好きな人もいれば、絵を見るより歌ったり、手を動かしたりするほうが落ち着く人もいる。よいと言われる場所へ自分を合わせるのではなく、自分がそこにいたいと思えるか。その確かめ方も、ケアの一部なのかもしれない。

モントリオール美術館の展示室(2016年撮影)
モントリオール美術館の展示室(2016年撮影)
写真:Daderot / Wikimedia Commons(CC0 1.0、サイズ調整)

用事を済ませるためでも、何かを学び終えるためでもなく、ただ気になるものの前で過ごす。そんな外出が、暮らしの予定にひとつ加わる。あなたなら、誰かにそっと入口を開いてもらいたい場所は、どこだろうか。


写真:Thomas Ledl / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、サイズ調整)

写真:Daderot / Wikimedia Commons(CC0 1.0、サイズ調整)

お時間あれば、もう少し。

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